白菊 -創香と受賞-

この度、今年初めて開催されたKAORI CREATOR®フレグランスコンテスト2022において、第2位を受賞いたしました。もちろん結果がすべてではありませんが、コツコツと自分なりに努力してきたことが、こうやって形となることはやはり嬉しいものです。
私の場合、想いをカタチにする様は石けんも香りも同じです。
先日、KAORI CREATOR®フェスティバル表彰式にて、この創香への想いや調香のプロセスをスピーチさせて頂きましたので以下に掲載いたします。
“植物の素晴らしい香り成分を用いて自ら香りを創りあげる楽しさ”を少しでも感じて頂ければ嬉しく思います。

この度は、このような素晴らしい賞を頂きまして誠にありがとうございます。
まだ驚きと歓びで胸がいっぱいです。この度の私の創香に共感や高く評価下さったみなさまに深く御礼と感謝を申し上げます。

私の香りのテーマは「白菊」、菊の香りです。

今年の夏に祖母を亡くし沢山の真っ白な菊の花と共に見送りました。茹だるような暑さと悲しみの中、白い菊の花々の清々しい香りが力強くも優しく、とても印象的なお別れのときでありました。
菊の花は、祖母が畑にいつも御仏壇用にとたくさん育てていて、道端や空き地にも雑草のように咲いていたり、お墓参りでも必ず供えられる花。この時今までそんな風に菊の花を当たり前のありふれた存在として見てきたことを少し申し訳なく思いました。そして改めて菊の花のことをもっと深く知りたくなりました。
菊の植物学や薬学の書籍・論文などに目を通し、菊花の展覧会にもいくつか初めて足を運び、改めて菊の歴史や薬効の素晴らしさ、その花姿や香りの美しさに触れる時を過ごしました。
菊の花を愛でながら花弁を浮かべた菊酒で不老長寿・無病息災を祈る重陽の節句があるように、菊は古より日本人にとって親しみがあり深まる秋に美しき花を咲かせる日本の国花です。その凛とした花姿・高貴な佇まい・気品ある菊花のイメージを日本ならではの植物の香りを用いて表現してみようと思いました。
処方の際に悩ましかったのはテーマに現物があるということです。菊は日本人なら誰もが知っている花でその香りもみなさんの知る所だと思います。ゆえにそのイメージを大きく壊すような香りにはできないし、でも菊の花そのものの香りを再現したいのではありませんでした。あくまでも「白菊」をイメージとして表現することにこだわりました。まず、アンバー・パチュリ・バイオレットなどそれぞれのベースのバランスが甘過ぎず渋過ぎず華やか過ぎず厳か過ぎず・・・となるように探究しました。そしてそれらがバランス良くリフティングし、かつ持続するように、クロモジ・ヒバ・スギなどの日本の木々の香りを用いてアコードを取っていきました。
また、ありふれた日常「ケ」の中に存在する菊を、少し特別な「ハレ」の日に存在させることにも意義を持たせました。この「白菊」は、これから迎える新年のご挨拶や卒業・入学式などのフォーマルな会合、新たなスタートの日など、白菊のように真っ白なまっさらな気持ちで凛と微笑むハレやかな日に纏っていただきたい香りです。もちろん、人・自然・地球というケの存在の有り難さや美しさに感謝の心は忘れずに。

最後になりましたが、今回このように真摯に香りと向き合うひとときを頂けた長島先生、ご評価下さったエバリュエーターの皆様、お世話頂きました事務局の方々に、改めて御礼と感謝を申し上げます。これからも大好きな香りの世界の表現や探究を楽しみながら邁進して行きたいと思います。ご清聴ありがとうございました。